「心臓病がある場合、どのくらいの強さで運動すればよいの?」
「運動中の心拍数は、何拍までなら大丈夫?」
心臓リハビリを始めるとき、多くの方が不安に感じるのが運動の強さです。
軽すぎる運動では十分な効果を得にくい一方、強すぎる運動は心臓への負担や症状の悪化につながる可能性があります。
そのため、心臓リハビリでは心拍数だけで判断せず、心肺運動負荷試験(CPX)の結果、息切れや疲労感、Borg指数、会話のしやすさなどを組み合わせて、その人に合った運動強度を決めます。
この記事では、心臓リハビリにおける運動強度の決め方を、理学療法士がわかりやすく解説します。
心臓リハビリの基本については「心臓リハビリとは?目的・内容・効果を理学療法士が解説」をご覧ください。
退院後に行う運動の流れについては「退院後・外来の心臓リハビリでは何をする?期間や運動内容を解説」で紹介しています。
運動強度とは
運動強度とは、運動を行ったときに身体や心臓へかかる負荷の大きさです。
同じ速さで歩いても、年齢、心臓の働き、筋力、服用している薬などによって負担は異なります。
健康な人には軽い散歩でも、心不全や体力が低下している人にとっては強い運動になることがあります。
反対に、日頃から活動量が多い人では、同じ運動を行ってもほとんど負担にならない場合があります。
そのため、歩く速さや運動時間を全員一律に決めるのではなく、一人ひとりの状態に合わせて調整することが重要です。
活動そのものの強さを表す指標に、METs(メッツ)があります。メッツの意味と日常生活での具体例も参考に、活動の強さと自分が感じるきつさを分けて考えましょう。
心拍数だけでは運動強度を決められない
運動をすると、身体が必要とする酸素や血液の量が増えるため、一般的には心拍数が上昇します。
このため、心拍数は運動強度を確認する大切な指標の一つです。
ただし、心臓病の患者さんでは、次のような理由によって心拍数だけでは正確に判断できないことがあります。
- β遮断薬など心拍数を抑える薬を服用している
- 心房細動などの不整脈がある
- ペースメーカーを使用している
- 運動しても心拍数が上がりにくい
- 貧血や発熱などにより安静時心拍数が高い
- 体調によって心拍数の反応が変わる
「年齢から計算した最大心拍数の何%」という方法もありますが、心臓病の患者さんでは実際の心拍反応と合わない場合があります。
自己判断で上限心拍数を決めるのではなく、検査結果や症状も含めて評価することが大切です。
CPXとATを使って決める方法

心臓リハビリで運動強度を詳しく決める方法の一つが、心肺運動負荷試験(CPX)です。
CPXでは、自転車エルゴメーターやトレッドミルを使って徐々に運動負荷を上げながら、次のような項目を測定します。
- 心電図
- 血圧
- 心拍数
- 酸素摂取量
- 二酸化炭素排出量
- 呼吸の状態
- 胸痛、息切れ、疲労感などの症状
CPXによって、運動中に身体がどのように反応するかを詳しく確認できます。
運動処方でよく使われる指標が、AT(嫌気性代謝閾値)です。
ATは、運動強度が上がることで身体のエネルギー産生や呼吸反応が大きく変化し始めるポイントです。AT付近またはATを超えない範囲は、有酸素運動を比較的継続しやすい強度の目安になります。
ただし、実際の運動処方はATだけで決めるわけではありません。心電図、血圧、不整脈、症状、基礎疾患なども含めて医師や心臓リハビリスタッフが判断します。
CPXで測定する主な指標や検査の流れについては、CPXとは?心肺運動負荷試験でわかることで詳しく解説しています。
心拍数予備能を使う方法
運動負荷試験で最高心拍数が確認できている場合は、心拍数予備能を使って目標心拍数を設定することがあります。
計算には、次のKarvonen法が用いられます。
目標心拍数=(最高心拍数-安静時心拍数)×係数+安静時心拍数
係数は、病状や体力、運動経験などによって調整されます。
たとえば、同じ最高心拍数と安静時心拍数であっても、心不全がある方、高齢の方、運動を始めたばかりの方では、より低い強度から開始することがあります。
ここで使用する最高心拍数は、年齢だけから予測した数値ではなく、可能であれば運動負荷試験で確認した数値を用います。
計算式だけを見て自己判断で運動強度を決めないようにしましょう。
Borg指数を使う予定
Borg指数の目安
| Borg指数 | 運動中の感じ方 | 運動強度の目安 |
|---|---|---|
| 6〜8 | とても楽 | 非常に軽い |
| 9〜10 | かなり楽 | 軽い |
| 11 | 楽 | 心不全では目安に含まれる |
| 12〜13 | 楽〜ややきつい | 一般的な中強度の目安 |
| 14〜15 | きつい | やや強い |
| 16〜17 | かなりきつい | 強い |
| 18〜20 | 非常にきつい〜限界 | 心臓リハビリでは通常目標にしない |
一般的にはBorg指数12〜13が中強度の目安とされ、心不全では11〜13が用いられることがあります。ただし、適切な強度は病状や治療内容によって異なります。
また、Borg指数が低くても、胸の痛み、強い息切れ、めまい、冷や汗、普段と異なる動悸などが現れた場合は、運動を中止して医療スタッフへ相談してください。
会話のしやすさで確認する方法
特別な機器を使わずに運動強度を確認する方法として、トークテストがあります。
運動しながら快適に会話を続けられる程度であれば、過度に強い運動になっていない可能性があります。
一方、息が切れて文章を続けて話せない、会話をするために何度も呼吸を整える必要がある場合は、運動強度が高すぎる可能性があります。
ただし、トークテストだけで安全性を完全に判断することはできません。もともと症状を感じにくい方や、運動中に心筋虚血や不整脈が起こる方では、医療機関での評価が必要です。
運動負荷試験を受けていない場合
運動負荷試験を受けていない場合でも、病状が安定していれば、医師の許可を得たうえで軽い運動から始めることがあります。
その場合は、次のような項目を確認します。
- 運動前後の心拍数と血圧
- Borg指数
- 会話を続けられるか
- 胸痛や動悸の有無
- 息切れや疲労感
- 運動後の回復にかかる時間
運動は短時間かつ低強度から始め、身体の反応を確認しながら少しずつ調整します。
安静時心拍数に一定の拍数を加える簡便な方法もありますが、心拍反応の個人差を十分に反映できません。運動負荷試験による運動処方が決まるまでの一時的な目安として使用される方法であり、自己判断による長期的な目標設定には向いていません。
運動時間と頻度も大切
安全で効果的な運動を考えるときは、強度だけでなく、頻度、時間、種類を組み合わせる必要があります。
心臓リハビリでは、これらをFITTと呼ぶことがあります。
- Frequency:運動する頻度
- Intensity:運動の強度
- Time:1回の運動時間
- Type:運動の種類
体力が低下している場合は、最初から30分間続けて歩く必要はありません。
5~10分程度の短い運動から始めたり、10分間の運動を1日に複数回行ったりする方法もあります。
運動に慣れてきたら、まず時間や頻度を少しずつ増やし、その後に強度を調整する方法が一般的です。
心不全では体調が日によって変化することもあるため、状態が悪い日は運動時間や強度を下げる判断も必要です。
決められた運動強度を日々の散歩に取り入れる際は、自宅でウォーキングを始める手順と体調確認のポイントも参考にしてください。
筋力トレーニングの強度
心臓リハビリでは、有酸素運動だけでなく筋力トレーニングを行うこともあります。
筋力トレーニングでは、軽い負荷から開始し、正しい動作を保ちながら無理なく繰り返せる強さに調整します。
特に注意したいのが、息を止めて強く力むことです。
息を止めたまま力を入れると、血圧が大きく変動する可能性があります。動作中も呼吸を続け、反動を使わず、ゆっくり行いましょう。
胸骨を切開する心臓手術を受けた方は、傷や胸骨の状態によって上半身の運動を制限する期間があります。開始時期や負荷については、必ず医療機関の指示を確認してください。
運動を中止して相談した方がよい症状
運動中に次のような症状が現れた場合は、無理に続けず運動を中止してください。
- 胸の痛みや圧迫感
- 普段と違う強い息苦しさ
- めまいや失神しそうな感覚
- 強い動悸や脈の乱れ
- 冷や汗や顔面蒼白
- 吐き気や強い気分不良
- 急に力が入らなくなる
- 運動強度を下げても症状が改善しない
また、運動前から安静時の息苦しさ、急な体重増加、むくみの悪化、発熱、強い倦怠感などがある場合は、運動よりも診察や治療を優先します。
症状が強い場合や急激に悪化した場合は、速やかに医療機関へ連絡してください。
目標の運動強度と、中止を判断する基準は異なります。心臓リハビリの中止基準と中止後の対応も確認しておきましょう。
よくある質問
スマートウォッチの心拍数を目安にしても良いですか?
運動中の心拍数を確認する参考にはなりますが、医療機器と同じ精度が保証されるものではありません。不整脈がある場合や動きが大きい場合には、正確に測定できないこともあります。表示された心拍数だけで安全性を判断せず、症状やBorg指数も確認してください。
運動しても心拍数が上がらないのは問題ですか?
遮断薬、ペースメーカーの設定、洞結節の働きなどが影響している可能性があります。心拍数が上がらないからといって、運動負荷が軽いとは限りません。無理に心拍数を上げようとせず、主治医やリハビリスタッフへ相談してください。
「ややきつい」と感じるまで運動して良いですか?
Borg指数12~13程度は運動強度の目安の一つですが、病状によって適切な範囲は異なります。胸痛、めまい、強い動悸などがある場合は、「ややきつい」より軽い運動でも中止が必要です。
毎日同じ強度で運動してもよいですか?
体調、睡眠、気温、薬の変更などによって、同じ運動でも身体への負担は変わります。運動前に体調を確認し、調子が悪い日は休むか、時間や強度を下げることが大切です。
まとめ
心臓リハビリの運動強度は、心拍数だけで決めるものではありません。
CPXで確認するAT、心拍数予備能、Borg指数、会話のしやすさ、血圧、症状などを組み合わせ、一人ひとりに合った強度を設定します。
β遮断薬を服用している方、不整脈がある方、ペースメーカーを使用している方では、心拍数だけを目安にすることが難しい場合があります。
低強度・短時間から始め、体調を確認しながら少しずつ調整することが、安全に運動を継続するための基本です。
「何拍までなら大丈夫か」「どのくらい歩けばよいか」と迷ったときは、自己判断で運動量を増やさず、主治医や心臓リハビリスタッフへ相談しましょう。
医療情報に関する注意事項
この記事は、心臓リハビリの運動強度に関する一般的な情報を提供するものであり、個別の運動処方や運動の許可を行うものではありません。
適切な運動強度は、病気の種類、心臓の働き、症状、治療内容、服用している薬、運動負荷試験の結果などによって異なります。
運動を始める前に主治医へ相談し、医師や担当する医療専門職から指示された範囲で行ってください。
参考資料
日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会合同ガイドライン
「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2026年6月20日更新)」
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