「心臓の治療を受けた後、いつから身体を動かすの?」
「入院中の心臓リハビリでは、どのようなことをするの?」
心筋梗塞や心不全、心臓手術などで入院すると、身体を動かすことに不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
入院中の心臓リハビリでは、心臓の状態を確認しながら、座る、立つ、歩くといった動作を段階的に進めます。
目的は単に歩けるようになることではありません。入院による体力低下を防ぎ、安全に退院し、退院後の生活や再発予防につなげることも大切な役割です。
この記事では、入院中の心臓リハビリについて、開始時期から退院までの一般的な流れを理学療法士がわかりやすく解説します。
心臓リハビリの基本については「心臓リハビリとは?目的・内容・効果を理学療法士が解説」をご覧ください。
対象となる病気については「心臓リハビリの対象となる病気は?心筋梗塞・心不全・手術後などを解説」で詳しく紹介しています。
入院中の心臓リハビリとは
入院中の心臓リハビリは、主に「急性期」から「前期回復期」に行われます。
急性期とは、心筋梗塞や急性心不全などで入院した直後や、心臓手術を受けた直後の時期です。
この時期には、まず治療によって心臓や全身の状態を安定させます。そのうえで、長期間の安静による体力低下を防ぐため、ベッド上での運動や離床を始めます。
病状が安定してくると、病室内や廊下での歩行練習を行い、必要に応じて心臓リハビリ室での運動へ進みます。
入院中の主な目標は、次のとおりです。
- 安静による体力・筋力低下を防ぐ
- 安全に座る、立つ、歩く動作を獲得する
- 食事、排泄、入浴などの日常生活動作を自立させる
- 自分の病気や治療について理解する
- 退院後の適切な活動量を確認する
- 再発や再入院を防ぐための自己管理を身につける
心臓リハビリはいつから始まる?
心臓リハビリの開始時期は、病名だけでは決まりません。
治療後の経過、血圧、心拍数、不整脈、呼吸状態、胸部症状、採血データなどを確認し、医師が実施可能と判断してから開始します。
病状が安定していれば、治療や手術後の比較的早い段階から始めることがあります。
一方で、次のような状態では治療や安静を優先し、開始を遅らせる場合があります。
- 安静にしていても胸の痛みや強い息苦しさがある
- 血圧や心拍数が安定していない
- 重い不整脈がみられる
- 心不全による肺うっ血やむくみが強い
- 出血や発熱などの問題がある
- 意識状態や全身状態が安定していない
大切なのは「できるだけ早く歩くこと」ではなく、その時点で安全にできる活動を選ぶことです。
開始前に確認すること
心臓リハビリを始める前には、心臓の状態と身体機能を確認します。
主な確認項目は次のとおりです。
- 胸痛、息切れ、動悸、疲労感などの症状
- 安静時の血圧と心拍数
- 心電図と不整脈の有無
- 酸素飽和度と呼吸状態
- 心臓超音波検査や採血検査の結果
- 点滴、酸素、ドレーンなどの医療機器
- 入院前の歩行能力や生活状況
- 筋力、バランス、フレイルの状態
高齢の患者さんでは、心臓の状態が改善していても、入院前から筋力や歩行能力が低下していることがあります。
そのため、心臓だけでなく「退院後にどのような生活を送るのか」まで考えて評価します。
入院中のリハビリの一般的な流れ
病状や医療機関によって違いはありますが、入院中は次のように活動範囲を広げていきます。
ベッド上で身体を動かす
治療直後でまだ起き上がれない場合は、ベッド上から始めます。
足首や手足を動かす運動、関節が硬くならないための運動、呼吸を整える練習などを行います。
長く寝たままでいると、筋力低下だけでなく、起立性低血圧、血栓、肺合併症などにつながる可能性があります。
無理のない範囲で身体を動かし、次の離床に備えます。
ベッドに座る
全身状態が安定したら、ベッドの背もたれを起こしたり、ベッドの端に座ったりします。
寝た状態から身体を起こすと、血液が足の方へ移動し、血圧が下がることがあります。
そのため、血圧、心拍数、顔色、めまい、息切れなどを確認しながら進めます。
立つ・椅子に移る
立位が安定したら、ベッド周囲や病室内で歩行練習を始めます。
最初は短い距離から行い、症状や循環反応に問題がなければ少しずつ距離を延ばします。
点滴や酸素を使用したまま歩く場合もあるため、自分だけで移動せず、医療スタッフの指示に従いましょう。
廊下を歩く
病室内の歩行に問題がなければ、廊下で歩く距離を延ばします。
歩行前後や歩行中に、血圧、心拍数、酸素飽和度、心電図、息切れ、疲労感などを確認します。
距離だけを目標にするのではなく、無理のない速さで安全に歩けることが重要です。
階段や日常生活を確認する
自宅に階段がある方では、退院前に階段昇降を確認することがあります。
また、着替え、トイレ、入浴など、退院後に必要となる動作も確認します。
一人暮らし、家族と同居、集合住宅、戸建て住宅など、生活環境によって必要な能力は異なります。
そのため、リハビリスタッフには自宅の環境や退院後に行いたいことを伝えておきましょう。
リハビリ室では何をする?
状態が安定すると、病棟だけでなく心臓リハビリ室で運動を行うことがあります。
主な内容は次のとおりです。
- 準備運動やストレッチ
- 歩行運動
- 自転車エルゴメーター
- 軽い筋力トレーニング
- バランス練習
- 整理運動
運動内容や強度は一人ひとり異なります。
心拍数だけで決めるのではなく、心電図、血圧、息切れ、疲労感、運動負荷試験の結果などを総合して調整します。
運動中の自覚症状を確認するために、「楽」「ややきつい」などで運動のつらさを表すBorg指数が使われることもあります。
運動中に確認していること
心臓リハビリでは、運動が安全に行えているかを確認するため、さまざまな項目を観察しています。
- 胸の痛みや圧迫感
- 息切れや呼吸数
- 動悸や脈の乱れ
- めまいやふらつき
- 顔色、冷や汗、唇の色
- 血圧と心拍数の変化
- 酸素飽和度
- 心電図の変化
異常がみられた場合は、運動を中止したり、強度を下げたりして、必要に応じて医師へ報告します。
患者さん自身が感じる症状も重要な情報です。胸の違和感、いつもと違う息苦しさ、強い疲労などがある場合は、我慢せずに伝えてください。
運動以外は何をする?
心臓リハビリは、運動だけではありません。
入院中には、医師、看護師、理学療法士、管理栄養士、薬剤師などが連携し、退院後の生活に必要な支援を行います。
具体的には、次のような内容があります。
- 病気と治療についての説明
- 薬の種類や飲み方の確認
- 食事、塩分、水分に関する指導
- 血圧や体重の測定方法
- 禁煙の支援
- 退院後の運動方法
- 仕事や家事への復帰に関する相談
- 不安や気分の落ち込みに対する支援
入院中から病気について理解し、自分で体調を管理できるようになることが、再発・再入院の予防につながります。
退院前に確認すること
退院前には、心臓の状態だけでなく、実際の生活を安全に送れるかを確認します。
主な確認項目は次のとおりです。
- 病棟内を安全に歩けるか
- 自宅に必要な距離を移動できるか
- 階段昇降が必要か
- 入浴や着替えを行えるか
- 退院後の運動方法を理解しているか
- 血圧、体重、脈拍を管理できるか
- 症状が悪化したときの対応を理解しているか
必要に応じて、6分間歩行試験や心肺運動負荷試験(CPX)などを行い、運動耐容能を評価します。
退院後も外来心臓リハビリへ参加する場合は、入院中の検査結果や運動内容を引き継ぎます。
病気によって進み方は異なる
入院中の心臓リハビリは、すべての患者さんが同じ日程で進むわけではありません。
心筋梗塞では、胸痛、心電図、不整脈、心臓の働きなどを確認しながら歩行距離を延ばします。
心不全では、息切れ、むくみ、体重、尿量、血圧などを確認し、体内にたまった水分や呼吸状態の改善に合わせて進めます。
心臓手術後では、循環状態に加えて、出血、傷の状態、呼吸状態、ドレーンなどの医療機器にも注意します。
予定より進み方が遅くても、それだけで回復が悪いとは限りません。病状や入院前の体力に合わせ、安全に進めることが大切です。
よくある質問
心臓が悪いのに歩いても大丈夫ですか?
病状が安定し、安全性を確認したうえで行う歩行は、入院による体力低下を防ぐために重要です。ただし、自己判断ではなく、医療スタッフから許可された範囲で行ってください。
リハビリ中に疲れたら休んでもよいですか?
我慢せずに伝えてください。疲労感や息切れは運動強度を調整するための大切な情報です。状態に応じて休憩や運動内容の変更を行います。
毎日リハビリを行いますか?
病状や医療機関の体制によって異なります。全身状態が安定していれば、体調を確認しながら継続的に行われます。
退院したらリハビリは終了ですか?
退院は心臓リハビリの終了ではありません。外来心臓リハビリや自宅での運動、生活習慣の管理へつなげていくことが重要です。
まとめ
入院中の心臓リハビリでは、心臓や全身の状態を確認しながら、ベッド上の運動、座位、立位、歩行へと段階的に活動範囲を広げます。
病状が安定すれば心臓リハビリ室で運動を行い、退院後の生活に必要な歩行や階段、自己管理についても確認します。
大切なのは、ほかの患者さんと同じ速さで進むことではありません。一人ひとりの病状と体力に合わせ、安全に退院後の生活へつなげることです。
不安なことや、退院後に行いたい活動がある場合は、入院中から医師や心臓リハビリスタッフへ相談しておきましょう。
医療情報に関する注意事項
この記事は、入院中の心臓リハビリに関する一般的な情報を提供するものであり、個別の診断、治療、離床や運動の許可を行うものではありません。
心臓リハビリの開始時期や運動内容は、病状によって異なります。入院中は必ず主治医や担当する医療専門職の指示に従ってください。
胸痛、安静時の強い息苦しさ、冷や汗、失神、急激な症状の悪化などがある場合は、すぐに医療スタッフへ伝えてください。
参考資料
日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会合同ガイドライン
「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」
