「大動脈解離とは、血管が破れる病気?」「治療後は歩いたり、家事をしたりできる?」と不安に感じる方もいるでしょう。
大動脈解離は、全身へ血液を送る大動脈の壁が、壁の中で裂ける病気です。発症直後は迅速な診断と治療が必要ですが、その後は病状に合わせて生活への復帰を目指します。
今、突然の強い胸痛・背中の痛み、失神、急な手足の麻痺などがある場合は、記事を読むより先に119番へ連絡してください。[1、2]
大動脈解離とは?大動脈瘤・破裂との違い

大動脈は、心臓から胸やお腹を通り、全身へ血液を送る太い血管です。壁は内膜・中膜・外膜という層で構成されています。
典型的な大動脈解離では、内膜にできた裂け目などから血液が壁の中へ入り、中膜が裂けるように広がります。もともとの血液の通り道を「真腔」、壁の中にできた通り道を「偽腔」と呼びます。偽腔は血栓でふさがることもあります。[1、3]
大動脈瘤は血管がこぶ状に拡大した状態、破裂は血管の外へ血液が漏れ出す状態です。解離と破裂は同じではありませんが、解離から破裂や臓器への血流不足が起こる場合があります。[1]
大動脈解離の症状と救急車を呼ぶ目安
突然の胸・背中・お腹の痛みに注意
代表的なのは、突然始まり、最初から強い胸や背中の痛みです。お腹が痛む場合や、痛む場所が移る場合もあります。
血流が障害される場所によっては、次の症状が現れます。
- 意識を失う、意識がはっきりしない
- 急に片側の手足が動かしにくくなる、言葉が出にくい
- 足が急に痛む、冷たくなる、力が入りにくい
- 強い息苦しさや冷や汗が出る
強い痛みがない場合もあり、症状だけで大動脈解離を否定することはできません。[1、3]
痛みが軽くなっても自己判断で待たない
突然の激しい胸・背中・腹部の痛みや、失神・麻痺などがあれば119番へ連絡してください。痛みが一度軽くなっても、様子を見続けず、自分で車を運転しないことが大切です。[1、2]
救急隊には、症状が始まった時刻、痛む場所、持病、使用中の薬を伝えます。家族は分かる範囲で補足し、お薬手帳などの準備のために通報を遅らせないようにしましょう。[2]
大動脈解離の原因とA型・B型の違い
高血圧や加齢に伴う血管壁の変化などが関係します。また、マルファン症候群など、生まれつき血管壁が弱くなりやすい病気が背景にある場合もあります。「生活習慣だけが原因」とは限りません。家族に大動脈の病気がある方は、その情報も医師へ伝えてください。[3、4]
治療方針を考えるうえで重要なのが「スタンフォード分類」です。
A型:心臓から出て上へ向かう「上行大動脈」に解離が及ぶもの
B型:上行大動脈に解離が及ばないもの
分類は痛みの場所ではなく、画像検査で確認した解離の範囲に基づきます。B型でも、破裂や臓器への血流不足を伴えば緊急治療が必要です。[3]
大動脈解離の検査と治療
画像検査で範囲と合併症を調べる
造影剤を使うCT検査などで、解離の範囲、血管の太さ、臓器への血流、出血の有無を確認します。状態に応じて心エコーなどを組み合わせます。心電図や血液検査だけで診断できる病気ではありません。[3]
A型は緊急手術、B型は状態に応じて治療
急性A型では、原則として緊急手術を検討します。人工血管に置き換える手術などで、破裂や心臓への重大な影響を防ぐことを目指します。
合併症のない急性B型では、血圧・心拍数や痛みを管理する薬物療法を基本に、厳重に経過を観察します。破裂、臓器への血流不足、治まらない痛み、管理が難しい高血圧などがあれば、追加の治療が検討されます。[3、5]
治療には外科手術のほか、金属の骨組みに人工血管を組み合わせた「ステントグラフト」を血管内に入れる方法があります。合併症がなくても、将来の拡大リスクなどから計画的な治療を検討する場合があり、方法と時期は専門医が個別に判断します。[5]
治療後の心臓リハビリはどう進む?
安静が必要な時期と、活動を広げる時期がある
発症直後は、大動脈への負担を抑える治療と安静が優先されます。その後、医師が病状の安定を確認してから、座る・立つ・歩くなどを段階的に進めます。手術を受けていない方にも、心臓リハビリが必要になることがあります。[6]
心臓リハビリの対象となる病気には、大動脈解離も含まれます。入院中の心臓リハビリの流れは参考になりますが、開始日や歩行距離を一律に当てはめないことが大切です。
血圧・症状・残っている病変を確認する
運動内容は、残存解離の有無、大動脈の太さ、治療経過、血圧の反応、体力などから決めます。息を止めて強く力む運動、重い物の持ち上げ、急な全力運動は避けるよう指導されます。適切な運動は回復を支える可能性がありますが、安全な負荷を自己判断しないでください。[5、6]
新人理学療法士は、病型・画像所見・治療歴に加え、主治医が指定する血圧・心拍数の範囲や中止基準を共有します。新たな胸背部痛、腹痛、手足の冷感・脱力などがあれば、運動を中止して速やかに医師へ報告します。[6]
退院後の生活で大切なこと

治療後も解離が残ったり、大動脈が徐々に拡大したりする場合があるため、症状がなくても定期的な診察・画像検査が必要です。[5]
血圧と服薬:家庭血圧を記録し、目標値や連絡する目安を確認する
通院:検査の予定を守り、薬を自己判断で減らさない
生活習慣:禁煙や減塩を続け、便秘で強くいきむ場合も相談する
家事や仕事:荷物の運搬、階段、入浴、運転などを具体的に相談する
退院後の家事・階段・外出の工夫も役立ちますが、大動脈解離について受けた個別の指示を優先してください。[5、6]
体調が普段と違うときは無理に活動せず、運動を中止する症状と相談の目安を確認しましょう。突然の強い痛みや麻痺、意識の異常は、通常の外来相談を待たず119番へ連絡してください。[2]
よくある質問
前兆がなければ心配しなくてよいですか?
前触れなく発症することがあります。前兆の有無で判断せず、突然の強い痛みなどには救急対応が必要です。[1]
手術を受ければ通院は不要になりますか?
手術した部分以外の大動脈や、残った解離を確認する必要があります。治療後も血圧管理と定期検査を続けます。[5]
退院後は歩いてもよいですか?
病状が安定し、医師が許可した範囲で歩行を行うことができます。速さ・時間・頻度は、退院前や外来の評価に基づいて相談してください。[6]
家族も検査を受けたほうがよいですか?
遺伝性の病気が疑われる場合などは、家族の画像検査や遺伝相談が検討されます。若い年齢での発症や家族歴を伝え、必要な評価を専門医に確認しましょう。[4、5]
まとめ
大動脈解離は、大動脈の壁が壁の中で裂ける病気です。突然の強い胸背部痛などには迅速な救急対応が必要です。治療後は血圧管理と定期検査を続け、主治医や心リハスタッフと相談しながら、自分に合う生活・活動範囲を整えましょう。
医療情報に関する注意事項
本記事は一般的な情報であり、個別の診断・治療・運動許可に代わるものではありません。服薬や活動量の変更は主治医に相談してください。突然の強い痛み、麻痺、意識の異常などがある場合は119番へ連絡してください。
参考資料
情報確認日:2026年9月28日
- [1]国立循環器病研究センター「大動脈瘤と大動脈解離」
- [2]総務省消防庁「救急車を上手に使いましょう~救急車 必要なのはどんなとき?~」(令和7年12月発行)
- [3]日本循環器学会ほか「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」(2024年8月30日更新)/英語版
- [4]欧州心臓病学会「2024 ESC Guidelines for the management of peripheral arterial and aortic diseases」
- [5]米国心臓病学会・米国心臓協会「2022 ACC/AHA Guideline for the Diagnosis and Management of Aortic Disease」
- [6]日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会ほか「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」
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