「心臓の出口が狭いと言われたけれど、どんな病気?」「症状がなくても治療は必要?」と疑問を持つ方もいるでしょう。
大動脈弁狭窄症は、心臓から全身へ血液を送り出す弁が開きにくくなる病気です。この記事では、主な症状、検査と治療、心臓リハビリで気をつけたいことを説明します。
大動脈弁狭窄症とは?心臓の出口が開きにくくなる病気
大動脈弁は、全身へ血液を送り出す左心室と、大動脈の間にある弁です。通常は3枚の「弁尖(べんせん)」という薄い膜が、血液を送り出すときに開き、その後に閉じて逆流を防ぎます。
弁が硬くなって十分に開かなくなると、血液を押し出すために左心室がより強い力を必要とします。負担が続くと、心臓の筋肉が厚くなったり、働きが低下したりして、心不全につながる場合があります。日本循環器学会の一般向け解説
血液が逆戻りする「大動脈弁閉鎖不全症」とは仕組みが異なり、両方を伴うこともあります。全体像は、心臓弁膜症の主な種類と症状をご覧ください。

主な原因は加齢による石灰化など
代表的な原因には、次のようなものがあります。
- 加齢に伴う変化:弁にカルシウムが沈着する「石灰化」などで硬くなる。
- 生まれつきの二尖弁:弁尖が通常の3枚ではなく2枚で、比較的若い時期から狭窄が進むことがある。
- リウマチ熱の後遺症:過去の炎症によって弁が変形する。
年齢だけで原因は決まりません。また、生活習慣を変えれば石灰化した弁が元に戻る、という病気でもありません。国立循環器病研究センターの解説
息切れ・胸痛・失神などの症状に注意
普段の生活の変化を見逃さない
初めは症状がないこともあります。進行すると、次のような変化がみられます。
- 階段や坂道で息が切れる
- 歩くと胸が痛い、締め付けられる
- 動いたときにめまいがする、気を失う
- 疲れやすくなり、家事や散歩が減った
「年のせい」と思って活動を減らしていると、症状に気づきにくくなります。本人だけでなく家族が気づいた変化も、受診時に伝えましょう。これらは大動脈弁狭窄症だけに起こる症状ではなく、原因の確認が必要です。国立循環器病研究センターの症状解説
心不全を伴うと、むくみや体重増加、横になると苦しいといった変化も起こります。心不全が悪化するサインと受診の目安も参考にしてください。
新しい症状は定期受診まで待たず相談する
息切れや胸の違和感が新たに出た場合、以前より強くなった場合は、主治医へ早めに連絡してください。失神した場合は、意識が戻っても速やかな診察が必要です。
強い胸痛が続く、安静でも強く息苦しい、意識が戻らない・はっきりしない場合は119番へ連絡し、自分で運転しないでください。
心エコーで重症度と心臓への負担を調べる
聴診の心雑音が発見のきっかけになりますが、診断の中心は超音波で調べる心エコーです。主に次の項目を組み合わせて判断します。
- 弁が開いた部分の広さ(弁口面積)
- 弁を通る血液の速さ
- 弁の前後の圧力差
- 心臓の大きさ、壁の厚さ、収縮する働き
血液を送り出す量が少ないと、重症でも血流速度や圧力差が高くならない場合があります。一つの数値や症状の有無だけで、軽い・重いとは決められません。 必要に応じてCTなどで追加評価します。弁膜症治療のガイドライン
収縮する働きの指標であるEFも、単独では重症度を示しません。心エコーのEFの意味と数値の見方を参考に、検査全体の説明を受けましょう。
治療は経過観察・手術・TAVIを状態に合わせて選ぶ
薬と経過観察の役割
軽症などでは定期的な診察・心エコーで経過を確認します。薬は高血圧や心不全などへの対応に使いますが、石灰化して狭くなった弁を薬で元どおりに広げることはできません。
症状のある重症例では、弁への治療が重要になります。無症状でも心臓の働きや検査の変化によって治療を検討するため、「症状が出るまで受診しなくてよい」とは考えないでください。弁膜症治療のガイドライン
外科手術とTAVIの違い
弁を治療する主な方法は、次の2つです。
- 外科的大動脈弁置換術:手術で病気の弁を取り除き、人工弁に置き換える。
- TAVI(タビ):カテーテルという細い管を使い、元の弁の内側に人工弁を留置する。多くは脚の付け根の動脈から行う。
どちらにも利点とリスクがあります。TAVIでも出血、脳卒中、刺激を伝える働きの障害によりペースメーカーが必要になることなどがあります。国立循環器病研究センター「TAVI」
年齢だけで決めず、弁・血管の形、ほかの病気、手術の負担、将来の再治療、本人の希望を多職種の「ハートチーム」で検討します。2025年の欧州ガイドラインでも、こうした個別の判断が重視されています。欧州心臓病学会の公式解説
運動と心臓リハビリは治療前後で考え方が変わる
治療前は、運動してよい範囲を確認する
症状のある重症大動脈弁狭窄症では、積極的な運動療法を行わず、弁の治療評価を優先します。 症状がなくても、重症度を確認せず運動を始めることは避けましょう。日本心臓リハビリテーション学会の運動療法解説
全員に同じ歩数・時間を勧めることはできません。重い荷物や強くいきむ動作も含め、日常生活で可能な範囲を主治医に確認してください。歩行中に胸痛やめまいが出たら中止し、運動を休む・中止する症状の目安に沿って対応します。
治療後は、回復に合わせて活動を広げる
手術やTAVIの後は、全身状態と傷の回復を確認し、座る・立つ・歩く練習などを段階的に進めます。心リハは運動に加え、服薬、栄養、体調管理、生活復帰の相談も含みます。退院後は外来心臓リハビリの内容と進め方も確認しましょう。心血管疾患のリハビリテーションガイドライン
新人理学療法士は、治療前後の違い、重症度、医師の運動指示、症状・血圧・心電図の変化を確認します。EFが保たれていることだけを運動許可の根拠にしない視点が大切です。

よくある質問
無症状でも治療が必要になるのはなぜですか?
症状より先に心臓への負担が進む場合があるためです。無症状の重症例への早期治療を支持する研究もありますが、全員に直ちに治療を勧める意味ではありません。検査や治療リスクを踏まえて判断します。
心エコーはどのくらいの間隔で受けますか?
重症度や変化の速さによって異なります。次の検査時期と、予定を待たず連絡する症状を確認してください。
高齢でも治療を受けられますか?
高齢でも治療を検討できます。体力や認知機能、ほかの病気、本人が望む生活などから、期待できる利益と負担を相談します。
治療後は通院や薬をやめられますか?
人工弁の状態や心臓の働きを確認するため、通院は続きます。必要な薬は人工弁の種類や持病によって違うため、自己判断で中止しないでください。
まとめ
大動脈弁狭窄症は、弁が開きにくくなり心臓へ負担がかかる病気です。息切れ・胸痛・失神などの変化を伝え、症状がなくても必要な検査を続けましょう。治療の時期と方法、運動の範囲は主治医や心リハ担当者と相談して決めます。
医療情報に関する注意事項
本記事は一般的な情報であり、個別の診断、治療、運動許可に代わるものではありません。薬や活動量は主治医・医療専門職に確認してください。強い胸痛、呼吸困難、意識の異常がある場合は救急対応を優先してください。
参考資料
確認日:2026年10月7日
- 日本循環器学会ほか:2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン
- 日本循環器学会:一般のみなさまへ・主な弁膜症
- 欧州心臓病学会・欧州心臓胸部外科学会:2025 ESC/EACTS Guidelines for the management of valvular heart disease
- 国立循環器病研究センター:TAVI(経カテーテル大動脈弁植え込み術)
- 日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会:2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
- 日本心臓リハビリテーション学会:心臓病の運動療法について Q.2
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