「少し疲れているだけなら運動したほうがよい?」「息切れが出たら、どの時点で中止する?」と迷うことはありませんか。
心臓病がある方にとって、適切な運動は体力や生活の質を保つために役立ちます。一方、体調が不安定な日に無理をすると、症状が悪化する可能性があります。
大切なのは、少しでも不安ならすべての運動を禁止することではありません。「始める前に休む」「運動中に中止する」「緊急の対応を優先する」という判断を分けて考えることです。
運動を休むこともリハビリの一部
心臓リハビリでは、運動を続けることだけでなく、体調に応じて休む判断も大切にします。
運動の効果は、1日休んだからといってすぐになくなるわけではありません。体調が悪い日に予定どおり行うことより、安全に継続できる状態を整えることが優先されます。
普段より体調が悪い日に「決めた運動だから」と無理をする必要はありません。運動を休み、必要に応じて主治医やリハビリスタッフへ相談しましょう。
運動前に確認したいこと

運動を始める前に、次の項目を確認します。
- 胸の痛みや圧迫感はないか
- 息切れや動悸が普段より強くないか
- めまい、ふらつき、強いだるさはないか
- 発熱や風邪症状はないか
- 足のむくみが増えていないか
- 体重が短期間で増えていないか
- 血圧や脈拍が自分の目安から大きく外れていないか
- 前日の疲労が強く残っていないか
- 睡眠や食事、水分が十分に取れているか
数値だけでなく、「いつもの自分と違うか」を見ることが重要です。
主治医から運動前の血圧、脈拍、体重などについて個別の基準を伝えられている場合は、その指示を優先してください。
運動を始めずに休んだほうがよい症状
次のような状態では、その日の運動を始めず、休息や医療機関への相談を検討します。
胸の痛みや圧迫感がある
胸が締め付けられる、押される、重いと感じる場合は、運動を始めないでください。
肩、腕、背中、首、あご、みぞおちなどに痛みや違和感が広がる場合もあります。冷や汗、吐き気、息苦しさを伴う場合は緊急性が高い可能性があります。
心筋梗塞の症状については、心筋梗塞とは?前兆・治療・退院後の生活を解説で詳しく説明しています。
休むと治まる胸の症状でも、狭心症が隠れている場合があります。狭心症の症状と受診の目安も参考にしてください。
息切れやむくみが普段より強い
以前と同じ動作で息切れが強くなった、横になると苦しい、夜間に息苦しくて目が覚めたという場合は、心不全が悪化している可能性があります。
短期間の体重増加や足のむくみを伴う場合も、予定していた運動を休み、主治医などへ相談してください。
詳しくは、心不全が悪化するサインと受診の目安をご覧ください。
動悸や脈の乱れが気になる
安静にしていても脈が極端に速い、遅い、不規則に感じる場合や、動悸にめまい・ふらつき・胸部症状を伴う場合は運動を控えます。
脈拍の数字だけで不整脈の種類や危険性を判断することはできません。症状が続く場合は医療機関へ相談してください。
脈が不規則になる原因の一つに心房細動があります。心房細動の症状・治療と運動時の注意点では、症状の見方と脳梗塞予防も解説しています。
発熱や感染症の症状がある
発熱、せき、下痢、嘔吐、強いだるさなどがある日は、運動によって脱水や心臓への負担が増える場合があります。
体調が回復するまでは休み、症状が強い場合や長引く場合は受診しましょう。
血圧や脈拍が普段と大きく違う
運動前の血圧や脈拍が、自分に指示された範囲から大きく外れている場合は、測定方法を確認して安静後に測り直します。
それでも異常が続く場合は運動を控え、主治医やリハビリスタッフへ相談してください。
厚生労働省の身体活動・運動ガイドでは、収縮期血圧180mmHgまたは拡張期血圧110mmHgの場合には運動を控えて休むことが示されています。ただし、心臓病がある方の基準は病状や治療によって異なるため、個別の指示を優先します。
運動中に中止したい症状

運動中に次のような症状が現れたら、無理に続けず中止してください。
- 胸の痛み、圧迫感、不快感
- 普段とは違う強い息切れ
- 動悸や脈の乱れ
- めまい、ふらつき、意識が遠のく感じ
- 冷や汗、吐き気、顔面蒼白
- 突然の強い疲労感
- 脚に力が入らない、転びそうになる
- 強い頭痛や見え方の異常
- 関節や筋肉の強い痛み
- 低血糖が疑われる空腹感、ふるえ、冷や汗
症状が出た場合は、安全な場所で座るか横になり、転倒を防ぎます。症状が強い場合は、一人で移動したり自動車を運転したりしないでください。
リハビリ中であれば、すぐに近くのスタッフへ伝えます。
「息が弾む」と「危険な息切れ」の違い
運動をすれば、ある程度は呼吸が速くなり、心拍数も上がります。そのため、息が弾むこと自体が直ちに異常とは限りません。
一般的な中等度運動では、会話ができる程度、またはBorg指数で「楽である」から「ややきつい」程度が使われます。
ただし、次のような息切れは中止の目安になります。
- 急に強くなった
- 会話ができないほど苦しい
- 胸痛や冷や汗を伴う
- めまいやふらつきを伴う
- 運動を弱めても改善しない
- 以前はできた運動で強く出る
- 運動後も長く続く
運動強度の考え方は、心臓リハビリの運動強度はどう決める?で解説しています。
すぐに119番へ連絡したい症状
次のような症状がある場合は、通常の相談を待たず、119番への連絡を検討してください。
- 強い胸の痛みや圧迫感が続く
- 胸部症状に冷や汗、吐き気、呼吸困難を伴う
- 安静にしても強い息苦しさがある
- 意識を失った、または意識がはっきりしない
- 突然倒れた
- 片側の手足が動かしにくい
- 言葉が出にくい、ろれつが回らない
- 強い動悸とともに失神しそうになる
症状が一度軽くなっても、心筋梗塞や重い不整脈などを否定できない場合があります。自分で運転せず、救急隊の指示に従ってください。
意識がなく、普段どおりの呼吸がない場合は、周囲の人が119番通報とAEDの手配を行い、通信指令員の案内に従って心肺蘇生を開始します。
突然の強い胸や背中の痛みは、大動脈解離でも起こります。大動脈解離の症状と救急対応も確認しておきましょう。
早めに医療機関へ相談したい変化
緊急性が高くなくても、次のような変化が続く場合は、定期受診まで待つべきかを自己判断せず相談しましょう。
- 以前より運動できる時間や距離が短くなった
- 運動後の疲労が翌日まで強く残る
- 数日間で体重が増えた
- 足のむくみが強くなった
- 同じ運動で息切れや動悸が増えた
- 運動後の血圧や脈拍が戻りにくい
- 運動中の症状が繰り返される
- 薬の変更後から体調が変わった
相談するときは、症状が出た時刻、行っていた運動、持続時間、血圧・脈拍、休んだ後の変化を伝えると状況を共有しやすくなります。
歩くと脚が痛み、休むと軽くなる症状を繰り返す場合は、血流の評価が必要になることがあります。下肢閉塞性動脈硬化症の受診の目安と運動療法で詳しく解説しています。
症状が治まれば運動を再開してよい?
症状が治まった直後に、同じ強さで運動を再開することは避けましょう。
胸痛、強い息切れ、めまい、失神しそうな感覚などがあった場合は、その日の運動を終了し、必要に応じて医療機関へ相談します。
軽い疲労だけで、休息により速やかに回復した場合も、原因を振り返ります。運動の速さ、時間、坂道、気温、睡眠、食事、水分摂取などを確認してください。
繰り返す症状がある場合は、運動の強さを自己判断で調整し続けるのではなく、運動負荷試験や心臓リハビリで評価を受けます。
医療機関で歩行時の反応を確認する方法の一つが、6分間歩行試験です。検査の流れと休憩・中止の考え方を知っておくと、検査を受ける際の参考になります。
大動脈弁狭窄症がある方は、症状が治まっても自己判断で再開せず、重症度と治療前後に応じた運動の注意点を確認して主治医へ相談してください。
安全に運動を続けるためのポイント
運動を安全に続けるため、次の点を意識しましょう。
- 主治医から運動の許可と目安を確認する
- 軽い準備運動から始める
- 急に速さや時間を増やさない
- 暑すぎる日や寒すぎる日は環境を調整する
- 食後すぐや飲酒後の運動を避ける
- 運動中に息を止めない
- 終了前に徐々に強度を下げる
- 運動後と翌日の体調も確認する
- 緊急時の連絡先を家族と共有する
症状がない通常の終了時には、急に立ち止まらず、ゆっくり歩くなどの整理運動を行います。ただし、胸痛、強いめまい、失神しそうな感覚などがある場合は、整理運動を続けず、安全な姿勢を取り、助けを求めてください。
自宅での具体的な歩き方は、心臓病の人が自宅でウォーキングを始める方法と注意点も参考になります。
退院直後は、家事や買い物が重なるだけでも負担になることがあります。家事・階段・外出を小分けに再開する方法も参考にしてください。
新人理学療法士が確認したいポイント
運動中止の判断では、単独の数値だけでなく、症状と経時的な変化を確認します。
- 運動開始前と比べて何が変わったか
- 症状が出た負荷量と持続時間
- 心拍数、血圧、心電図、酸素飽和度の変化
- 運動強度を下げた後の回復
- 胸部症状や呼吸困難を伴っていないか
- 前回の運動時と反応が異ならないか
- 服薬、睡眠、食事、発熱、体重増加などの背景
施設の中止基準と緊急時対応を事前に確認し、異常が疑われる場合は速やかに医師や看護師へ共有します。
よくある質問
疲れているだけでも運動を休んでよいですか?
前日の疲れが強く残っている場合や、普段と違うだるさがある場合は休んで構いません。疲労が続く場合は、運動量や病状について医療専門職へ相談してください。
血圧が高い日は絶対に運動できませんか?
運動を控える血圧の基準は、病状や主治医の指示によって異なります。安静後に測り直しても自分の目安から外れる場合は、運動を始めず相談しましょう。
運動中の動悸はすべて危険ですか?
運動によって心拍数が上がること自体は自然な反応です。ただし、急に脈が乱れる、めまい・胸痛・強い息切れを伴う、運動をやめても続く場合は中止して相談してください。
1日休むと体力が落ちませんか?
通常、1日休んだだけで体力が大きく低下するとは考えにくいでしょう。体調不良時は休息を優先し、回復後に無理のない強さから再開します。
症状がなければ毎日同じ運動をしてよいですか?
体調、天候、睡眠、薬の影響などで負担は変わります。その日の状態を確認し、主治医やリハビリスタッフから示された範囲内で調整してください。
まとめ
心臓病がある方は、胸痛、普段と違う息切れ、動悸、めまい、冷や汗、強い疲労などがある場合、運動を無理に続けないことが大切です。
運動前に異変があれば始めずに休み、運動中に症状が出た場合は中止します。強い胸痛、安静時の呼吸困難、意識の異常などがある場合は、119番への連絡を優先してください。
休むべき基準や運動を再開する時期は、病状によって異なります。体調が安定しているときに、主治医や心臓リハビリスタッフと自分用の基準を決めておきましょう。
医療情報に関する注意事項
本記事は一般的な医療情報であり、個別の診断、治療、運動許可に代わるものではありません。
運動を休む血圧・脈拍・体重の基準、薬の使用方法、症状が出た際の対応は、主治医や医療専門職から受けた指示を優先してください。
強い胸痛、安静にしても続く呼吸困難、意識の異常などがある場合は、記事だけで判断せず、速やかに119番へ連絡してください。
参考資料
- 日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会ほか「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Makita.pdf - 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023:身体活動・運動を安全に行うためのポイント」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-008.html - 厚生労働省「運動実施時のけが・事故の予防と対策」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-06-002.html - 日本心臓リハビリテーション学会「心臓病の運動療法について Q.7」
https://srv1.jacr.jp/faq/q157/ - Fletcher GF, et al. Exercise Standards for Testing and Training: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2013.
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIR.0b013e31829b5b44
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