「退院したので歩きたいけれど、何分から始めればいい?」「少し息が上がっても続けて大丈夫?」
心臓病があると、ウォーキングの始め方に迷うことがあります。大切なのは歩数を増やすことより、今の病状に合う方法を知ることです。
この記事では、自宅の周りや室内で歩き始めるための準備、強さや時間の考え方、中止して相談する目安を解説します。すでに運動の指示がある方は、その内容を優先してください。
ウォーキングを始める前に確認すること
自宅で歩く運動を始めてよい状態か
同じ心臓病でも、病気の種類、治療後の時期、息切れや不整脈の有無によって適した運動は変わります。病状が不安定な心不全や狭心症などでは、運動より治療を優先する場合があります。退院できたことだけで、自由に運動してよいとは限りません。日本心臓リハビリテーション学会「運動療法 Q.2」
まず、主治医やリハビリの担当者に次の点を確認しましょう。
- 自宅でウォーキングを始めてよいか
- 歩く速さ、1回の時間、休憩の入れ方、週の回数
- 運動を休む症状や、血圧・脈拍などの個別の目安
- 症状が出たときの対応と連絡先
手術後の制限や、膝・腰の痛み、転倒の心配も伝えます。買い物や通院で歩く量を含めて相談すると、生活に合う計画を立てやすくなります。
心筋梗塞後は、治療内容や心機能によって運動を再開できる時期が異なります。病気の概要と退院後の注意点は、心筋梗塞とは?前兆・治療・退院後の生活を解説をご覧ください。
散歩に加えて、料理や洗濯、階段などの負担も考える必要があります。心臓病の退院後に動いてよい範囲と生活の工夫も確認してください。
外来のリハビリで方法を練習する
外来リハビリでは、運動中の反応を確認しながら、自宅での運動内容を相談できます。初めて運動する方や、体力に不安がある方は、利用できるか尋ねてみましょう。日本心臓リハビリテーション学会「運動療法 Q.9」
通院で行う内容は、退院後・外来の心臓リハビリの流れで紹介しています。
歩く前に、その日の体調を確認する

運動を始めてよいと言われていても、毎日同じ量を行えるとは限りません。出発前に、普段と違う変化がないか確かめます。
- 安静にしていても息苦しい、いつもより動くと息切れする
- 胸の痛みや圧迫感、強い動悸、めまいがある
- むくみが増えた、体重が急に増えた
- 発熱や強いだるさがある、前日の疲れが著しく残っている
こうした変化がある日は、予定どおり歩こうとせず、運動を見合わせて医療機関へ相談します。心不全がある方は、体重やむくみも確認し、事前に決めた連絡の目安に従ってください。日本心臓リハビリテーション学会「運動療法 Q.7」
血圧・脈拍の測定を指示されている方は記録しましょう。数値がいつもの範囲でも、症状があるときに運動を続ける根拠にはなりません。
歩く場所と持ち物を整える

家の近くの平らな道から考える
最初は、坂や階段が少なく、途中で休めて、短時間で帰れる場所が候補になります。遠くまで行って折り返すより、自宅近くの短いコースを選ぶと、体調に合わせて終えやすくなります。
交通量、路面の凹凸、信号待ち、トイレの場所も確認しましょう。初めのうちは、必要に応じて家族に付き添ってもらう方法もあります。
室内では転倒しにくい環境をつくる
廊下や部屋で歩く場合は、床のコードや物、滑りやすい敷物を片付けます。急な方向転換を繰り返す狭い場所や、靴下だけで滑りやすい床を歩くことは避けましょう。
屋外では足に合う歩きやすい靴を使い、携帯電話と連絡先を持っておくと安心です。荷物は軽くし、処方された発作時の薬がある方は、持ち歩き方・使い方を医師に確認してください。
歩く強さ・時間・回数の決め方
会話と「きつさ」を確認する
歩く強さは、検査結果や運動中の症状などから個別に決めます。「会話を楽に続けられるか」は補助的な目安ですが、それだけで安全を判断することはできません。
心臓リハビリでは、きつさを6〜20で表す「Borg指数」も使います。ガイドラインでは一般に12〜13、心不全では11〜13などが目安として示されていますが、全員がその強さを目指すわけではありません。始めたばかりの方は、もっと軽い運動が適することもあります。心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
薬や不整脈の影響で、脈拍が運動量に応じて増えにくい場合もあります。「年齢から計算した心拍数」や時計の表示だけで速さを決めず、心拍数・Borg指数・CPXを使った運動強度の決め方も参考に、担当者へ確認しましょう。
心房細動がある場合も、時計の心拍数だけで歩く速さを決めないことが大切です。心房細動がある方の運動の始め方と注意点を確認し、主治医と自分用の目安を相談しましょう。
短い時間から、必要に応じて分ける
最初から30分続けて歩く必要はありません。自宅での運動が許可されている方では、例えば5分程度のゆっくりした歩行から検討し、必要なら休憩を挟んで分けます。ただし、この時間も一律の開始基準ではありません。日本心臓リハビリテーション学会「運動療法 Q.7」
週に何回行うかも、体力や通院・家事の負担を含めて決めます。休んだ分を翌日にまとめて歩く必要はありません。心不全がある方は、心不全の運動療法と注意点も確認してください。
医療機関でCPXを受けている場合は、AT付近の心拍数や運動負荷量が、歩く強さを考える参考になります。CPXの内容や結果の見方は、CPXとは?心肺運動負荷試験でわかることで解説しています。
歩行能力の評価には、6分間歩行試験も使われます。検査で歩いた速さが、そのまま自宅の運動目標になるわけではありません。6分間歩行試験の結果を生活に生かすポイントも確認しましょう。
歩き始めから終了後までの流れ
最初と最後はゆっくり歩く
普段どおりの体調で始める日は、いきなり速く歩かず、ゆっくりした動きから入り、指示された速さへ移ります。予定どおり終えるときも、少しずつ速度を落として体を落ち着かせます。準備運動と整理運動も含めた時間配分を相談しましょう。心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
ただし、胸痛や強い息切れなどが出たときは別です。整理運動のために歩き続けず、その場で運動を中止してください。
増やす前に、翌日の体調を見る
終了直後だけでなく、夕方や翌日の疲れ、息切れ、むくみも確認します。症状がなく続けられていることを担当者と確認しながら、時間や回数を調整しましょう。速さ・距離・時間を一度に増やさないことが、変化を振り返る助けになります。
記録は「歩いた時間・感じたきつさ・症状・翌日の体調」程度で十分です。家族は歩数を競わせるより、普段との違いを一緒に確認してください。理学療法士も、検査上の強さだけでなく、実際の道や生活全体の負担を含めて助言することが大切です。
暑さ・寒さと水分補給に注意する
暑さが厳しい日や熱中症警戒アラートが出ている日は、屋外での運動を控え、涼しい室内への変更や休むことを考えます。寒い日や風雨の強い日も、無理に外へ出る必要はありません。日本心臓リハビリテーション学会「高温環境での運動療法中の熱中症予防について」
水分補給は大切ですが、心不全などで水分・塩分の調整が必要な方もいます。「歩くから多めに飲む」「塩分を追加する」と一律に決めず、暑い日の補給量も主治医へ確認しましょう。食後すぐを避けるなど、歩く時間帯も生活に合わせて相談してください。日本心臓リハビリテーション学会「運動療法 Q.5」
中止して相談する症状と救急の目安
歩いている途中に胸の痛み・圧迫感、普段と違う息切れ、動悸、めまい、冷や汗が出たら、運動を中止します。安全な場所で楽な姿勢を取り、一人で無理に歩いて帰らないでください。
強い胸痛や胸の圧迫感が続く、安静でも強く息苦しい、意識が遠のく・倒れるなどの場合は、119番で救急車を呼びます。症状が軽くなっても、その日の運動を自己判断で再開せず、医療機関に相談しましょう。厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」
体重やむくみなどの変化は、心不全が悪化するサインと受診の目安も参考にしてください。
よくある質問
毎日歩かないと効果はありませんか?
毎日歩くことを義務にする必要はありません。体調や生活に合う回数を相談し、休養を取りながら続けましょう。
1日1万歩を目標にしてもよいですか?
心臓病のある方すべてに適した目標ではありません。家事や通院での歩数も含め、歩数より症状や負担に合う時間・強さを優先します。
雨の日は室内を歩いてもよいですか?
室内歩行も選択肢です。転倒しにくい空間を確保し、屋外と同じ時間が適切か担当者に確認しましょう。階段の上り下りは負担が異なるため、代わりに増やさないでください。
スマートウォッチの心拍数が正常なら続けられますか?
表示だけでは判断できません。測定のずれもあり、胸痛や息切れなどの症状があれば、表示にかかわらず中止してください。
まとめ
自宅でのウォーキングは、病状が安定し、運動を始めてよいことを確認してから取り組みます。自分に合う短い時間から始め、歩く前・途中・翌日の体調を見ながら調整しましょう。
歩数や速さを競う必要はありません。主治医やリハビリの担当者と相談し、無理なく続けられる方法を見つけることが大切です。
医療情報に関する注意事項
本記事は一般的な情報であり、個別の診断や運動処方に代わるものではありません。運動の開始・変更・再開は、病状や治療内容に応じて主治医や医療専門職へ相談してください。強い症状や緊急性が疑われる場合は、記事の確認より救急対応を優先してください。
参考資料
資料・公開記事の確認日:2026年9月19日。
- 日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会:2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
- 日本心臓リハビリテーション学会:心臓病の運動療法について Q.2
- 日本心臓リハビリテーション学会:心臓病の運動療法について Q.5
- 日本心臓リハビリテーション学会:心臓病の運動療法について Q.7
- 日本心臓リハビリテーション学会:心臓病の運動療法について Q.9
- 日本心臓リハビリテーション学会:高温環境での運動療法中の熱中症予防について
- 厚生労働省:こんな時は迷わず119へ
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